長尾圭「つづきのはんすう」オンラインビューイングより

2021年11月19日に、美術家のキタミノルさんを聞き手に迎えて配信したオンラインビューイングでの、長尾さんとキタさんのトークから抜粋・編集しました。長尾さんの絵の描き方から、絵を描く/見る楽しさを行ったり来たりするおしゃべりです。

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例えばのカーテン】

つづきのはんすう(あ)

キタ 今回(ギャラリー入り口の)説明のところに「カーテン」という言葉が具体的に出てきて、それを読んだときに「あーカーテンやー」って、僕なんかはほんとに単純に思ってしまうんだけど。逆に「ほんとにカーテンって思ってるの?」とか「カーテンって言っちゃっていいの?」って思ったりもするんですけど。

長尾 「カーテン」っていう言葉で括ってしまうところもありつつ、「例えばのカーテン」という感じもありますね。
カーテンというのも、カーテン自体を見て言っているものもありますし、カーテン越しに見える風景であったり、立ち位置も、室内から屋外を見ているのか、屋外から窓枠のあるカーテンを見ているのか、とか変わっていったり、そのカーテンに隠れてしまっているところとか…。視点が変わるというか、結局、カーテンというモチーフというよりは立ち位置が変わったり、視線が変わったり、そういうようなとこらへんに自分自身の興味があるというか。

キタ  霧のような、スコールとか、そんな感じのカーテンをイメージしたりもするけど。

長尾 そういうふうに観てもらえてたらうれしいです。

キタ 前後左右がみえへんけど。風って見えへんけど、風が見えるっていうか、そのときにすごくわくわくした覚えがあるなあ。

長尾 そういう状態がそこにあると湿度とか、そういうものが描けていればいいかなあと。

キタ いや十分、ぼく個人にはすごく伝わってるけどなあ。いつも二人で話している分にも必ず伝わるなあ。

長尾 なかなか…。

【“とちゅう”にいどむ】

つづきのはんすう(く)

キタ 水彩と油彩の自分の中でそのあり方の違いというのは自分の中で何かあるんですか?

長尾 あんまりそれはね。ただ、でもやっぱり紙の方が戻れない。

キタ ほう!

長尾 その戻りたいがために、マスキングテープとかマスキング液を使ってたりするんですよ。さかのぼりたい。絵を描いていくって言っても、必然的に絵の具を重ねていって足し算することになる。そこにどうにか、自分の中ではプラスするものと同様にマイナスするっていうところ…。

キタ 消したいという意味ではないんやろうけど、それに近いのかな?

長尾 描いたのと同時にその描いた跡のような状態が定着すれば

キタ で変な話、消すっていうことも描いてることの一部やねんな。

長尾 そうです。その消すっていう感じ、たとえば油絵具でこう描いて、消して、消し痕が って感じの描き方。
それは紙ではちょっとしにくいので、それと同じような感じでマスキング。そういう意味では、こっちでは油絵での行ったり来たりという実感とは違う感じになりますね。
マスキング液っていうのは、マスキングテープと同じような感じで、まあいったらマスキング液を使って絵を描いてるんですよね。
マスキング液が乾いた後なりマスキングテープを貼った後なりに、また絵の具をつかってそこでまた絵を描いていく。そこはプラスしている状態。絵筆で描いていって、今度は剥がして…

キタ 描いてまた上から絵の具をのせて剥がしてのせて、っていうことが、あーわかるーわかるー。スゴイ面白そう、って僕なんかは思ってしまうなあ!

長尾 そのマスキングをして、絵の具でまた描くじゃないですか。剥がすともうほんとに自分の意図しない部分が抜け落ちてしまったりとか、そのコントロールしきれない部分というのも…。

キタ まあ偶然っていう…。

長尾 だからといって全部偶然的になってしまいたくもない、というそこでも中途半端な感じというか。その不安定感というか、そういう状態に常に挑む行為というか。

キタ 思うけど、僕らの一番弱い部分ね、そういう部分に対して。コントロールしたいんだけど、したくないー!!そやけどちょっとだけコントロールしてみたい。そういう欲望というか願望というか、きっと多くの人が思うんやろうね。
それは見てる人もそういうところに引き寄せるものがあるんやろなと。

長尾 こうやったらできあがるとかっていうところでない、そこではない。

キタ 逆に言えばそれのつまらなさというのも知ってしまったというね。そういうのってつまらんじゃんってやっぱ思うっていう。
予測されてることをそのまますることってそれすら難しいと思うねんけど、それができたときっていうのはやっぱりできたかっていう形になって、そないに安心感みたいなのがあって。物の楽しさっていうのは全部が安心感で成り立ってるというわけではなくて、非常に不安定でちょっと恥ずかしかったりちょっと辛かったりするときのほうがきっと面白いんやろうな、っていう。それが絵だけでなく全てのことに関してそうなんやろうなと思うよ。
そういうことがでているよなあ。実際それを求めてるという部分もよくわかるし。そういうふうに見ていったらどんどん面白くなるよね。

長尾 そのストロークもどっかで途切れてたり…ですし、色面にしてもちゃんとパシッと塗るのかといったら塗りきれてなかったり、そのイメージに対して何か具体的なイメージがあるのかと言われると何も結び付かなかったりという状態で、そのなにもかもが途中で切断してしまっているというか。ただその切断してしまっているというのがいいという…途中の状態だっていうのが。
漠然とこれは途中ですっていっているのではなくて、ここからここまでのあいだの途中。そういう感じはありますね。

キタ ほんとによく分かるよね。きっと長尾さんにそういう質問をどんどんするとどんどん面白くなっていく。

長尾 そんなに、ねえ(笑)まあドローイングなんで、それぞれにアプローチはやっぱり変えてってるので。

キタ やっぱり何を描いてるんだろうというふうに具体性みたいなものをもとめると、なんかはぐらかされてる感がして、なかなか面白みに到達せえへんところもあると思うんよね。何を描いてるんだろうという気持ちは自然発生的に常識的にあって全然いいと思うねんけど、でもそれだけじゃないのかもしれないというふうに疑いにかかって見てみると、意外と見ている人はなんか違う面白さを見るよね。そういうものが出てくる可能性がある。まあ長尾さんの絵だけじゃなくてどんな人の作品もそうなんちゃうんかなーって思うよなー。
それを見つけたときってひょっとしたら作者が意図してないことなのかもしれないけど、なんか「イヒっ」ていう楽しみみたいなものがある気がする。

【余白で描く】

つづきのはんすう(お)

キタ これ僕は好き、これがすごい気になる。
何やろうこれと思ってしまうけど、他の作品よりすごくストロークが少なくて、目立つというのもあるけど、なんか気になるよね、っていう。こういう作品にぼく個人がすごく弱くて、なんか面白い。ここ(画面上部の屋根みたいな線・以下“上”)が特に好きっていう。なんなんこれ?

長尾 ここでは(画面下部のマスキング液で白く残したところ・以下“下”)ないんですか?こっち。

キタ きっとそれも同じことで、長尾さんはここ(上)ではないって言っているんだけど、僕がここ(上)が好きなのは、ここ(下)があるからなんや、というふうにどんどん物の見え方が変わってくる、っていうのが面白いなあって。絵って面白いなあと思ってしまう。

長尾 ここ(上)っていうよりはこっち(下)のところになんか描けているかなという感じもあるんですよね。
ここ(上)はここでへんなリズムというか、自分の中では、どいう言ったらいいんですか、造形的な作り方でいうと…

キタ そうそう、作ってる立場で言うと。ここはうまいこといったよなー、でも退屈なんだよなー、じゃあ何か描いてみよう、というので成り立ってるんかもしれへんなと思ったときに、僕も物を作ってるからとかそういう意味じゃなくて、こっち側に引っかかったのは長尾さんが言わんとしてることとは全然別の、でも冷静に考えたら、ここ(上)があるのはここ(下)があるからなんやろな、っていう…。

長尾 造形的にはそうなってしまう…

キタ 結論から言うとそういうふうに整理されてしまうんやろな。

長尾 しゅっときれいに描けない。ぎこちなくしたいというか。ぎこちなくしたいという時点でわざとらしい感じが出てるんで、それはもういやらしい感じでそれはあかんなと思ってるんですけど。

キタ マスキング液の余白を描くという、エッジみたいなんがでてくるのほんとに面白いから。描いてるのに消しているみたいな。

長尾 そこが自分でもわからなくなるんです。ここ描いてたのかなーとか描いてた部分が抜け落ちて、混乱してしまうというような状態になるのがいいのかなと思うんですけど。
これがこうでこうでこうで…という状態が見えてしまうというのもあれですし、マスキングというのがすごく強調されてしまうのもどうかなと思うので。何もかもがちょうどいいというのもなかなか難しいんですけれども、そういうのが描けたらいいかな。

キタ 程あいが。

長尾 そういう意味で、紙の方が程合いがどんどんやりすぎてしまって、もどれないというか。

キタ 物を作るって程あいやもんね。それを探ってる。

長尾 それは思います。

キタ それは誰しも、絵を描くとか描かないとか関係なく、程あいを探るっていうのはけっこう面白い。

長尾 水彩の方が諦めよくという感じはします。キャンバスだと粘れるのがいいのか悪いのか…という感じはあります。
まあ、こっちでやってたことをキャンバスでもフィードバックできたらいいかなと思いますし。

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